Mar 24, 2009

読書メモ:東京昆虫図鑑

旧Ganesha's monologue(by P_BLOG)より移転転記。(2009-12-13)

東京昆虫図鑑
  • 東京昆虫図鑑
  • 海野和男(写真・文)
  • ちくま文庫

1988年の本だから、今から21年も前の古い本だ。今さら、という気もするが、東京都心部の自然環境についての鋭い指摘は、現在でも充分に通用するものだ。

実際は小さな変化が日常茶飯事に起こっている。道端の草刈りにしても、そこに住む昆虫にとっては、大きな環境の変化である。
(中略)
だから、もしあなたがその古い家を立て替えるとすると、その庭に住む昆虫にとっては、まさに天変地異が起こったようなものだ。

大型再開発や宅地造成ばかりが環境破壊ではないと筆者は言う。民家のちょっとした庭先も、小さな昆虫たちにとっては世界そのものなのだ、と。地価の高騰した東京都心部では、こうした民家が建て替えでどんどんビルなどに変わっていく。ビルになると同時に庭も、植木鉢も無くなるのである。

しかし都市においては、一度破壊された環境は容易には戻らないので、いくら生存能力の高い昆虫でも、容易には勢いを回復できない。もちろん破壊された後には、また新しい環境ができるので、しばらくすれば、昆虫が住みつくことになる。しかしその昆虫は以前からいた種類のものとは異なった種である場合が多い。特に都市の一部に遺存的に残っていた昆虫は、隣接する地域にいないため、一度環境が破壊されると、もう戻ってくることはない。
特にどういった種が打撃を受けるかといえば、一年間の発生回数の少ないものほどいなくなっていく傾向が強い。
年に一回しか発生しない種では、成虫以外の時期に破壊が行われることが多いだろうし、一度個体が減ってしまうと、回復に時間がかかる。たとえ細々と生きていても、十分勢いを回復する前に、また環境の変化が起こることになる。なにしろ公園の草刈りだって、一年に何度も行われるのだ。

この本を読むと、私自身が直接開発に関わることはないとはいえ、不動産業界に身を置く我が身に忸怩たる思いを感じるのだ。

いろいろ物件情報を見ていると、「広めの土地や庭付きの一戸建ては建売業者に売る」→「建売業者は古家を壊し、土地を細分化して新築一戸建てを建てて売る」というパターンが定着している。新たに建つ一戸建ては、土地が細分化されているので、ろくすっぽ庭など無いのだ。

こんな劣悪な物件を買う人の気が知れないが、昔と違って最近は不動産を買うのは30代くらいの若い人が多く、つまり金がないのだ。だから仕方がない面もある。さらにもう一つ付け加えると、最近の若い人は、庭をいじるのが嫌いな人が多い。だったら、一戸建てに固執せずにマンションでも買えば良いのに…。話が逸れた。このへんにしておこう。